| 世界の果てには何があるのだろう?
犬の鳴き声はあるのだろうか? 裏切られた愛はあるのだろうか? それとも、誰もいない部屋があるのだろうか?
もしそうだとすれば、ここは、世界の果て。
この部屋には誰もいない。
妻はさっき出て行った。そして、僕はここで一人、今にも泣き出しそうな空を眺めている。
ここには、誰もいない。でも、確実に、ある種の残留思念みたいなモノはある。それが妻のモノなのか、僕のモノなのか……。
とくにかく、僕は、途轍もない孤独感を感じながら、誰かの思念を感じている。そして、僕は空を眺める。庭を眺める。花を眺める。
でも、何を見ても、僕には妻が出て行った時に見た後ろ姿しか思い出せない。数秒のことが、僕の瞼に、くっきりと、しっかりと焼き付いてしまった。ちょうど、古代、犯罪を犯した人間の額に刺青をしたかのように。僕の瞼には、いや、心にはそれが焼き付けられた。自分の罪の代償として。
きっとそれは永遠に消え去らないモノなのだろう、刺青と同じように。僕はそれをずっと抱えて生きて行かなくてはいけないんだろう。それは謂われのない代償ではないのだから、甘んじて受けよう。そうした痛みはきっと一生抱えて生きて行かなくてはいけないんだろう。
でも、……告白しよう。僕は今でも、妻を愛している──。
しかし、僕に、妻を裏切った僕に、それを云う資格があるのだろうか。僕には判らない。もしかしたら、誰かは云うかもしれない。資格なんて関係。──一般論だ。いや、もしかしたら本当に資格なんて関係なのかもしれない。でも、そう感じるには、僕はあまりに自己規範に基づいて生きてきた。その規範では、僕には、資格なんかない、と云っている。
僕は、結局何処へも行けないのかもしれない。でも、僕は何処かへ行きたい。
そう、僕は今、途方に暮れている。どうしたらいいのか判らずに、ただ、空を眺めている。世界の果てで。
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